男性不妊検査の実際

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病院や男性不妊検査を実際に受けたことがある方であれば、検査を受けるときに何のための検査なのかよくわからず検査が進んでいくという経験をしたことがある方も少なくはないのでしょうか。

ここでは、現在実際に行われている男性不妊検査の内容、目的について紹介していきますので、内容がわからず不安に感じた方、これから検査を検討している方等に参考にしていただけたらと思います。

精子検査

精子検査は、婦人科(レディースクリニック等)でもおこなわれることがある男性不妊検査において最も基本的な検査です。
検査を受けることにより自身の精子に妊娠をさせる能力が不足していないか、精子のどの点に問題があるのか等を知ることができます。
精子は生活環境の影響などを受けやすいため、検査結果にばらつきが生じることがあるので、複数回行われることが望ましいとされています。

精子検査の内容

検査機関によって多少の違いはありますが、基本的な流れは

禁欲期間を2~7日に設定
通常2~7日の禁欲期間(最後に射精してからの日数)をもうけることが推奨されます。極端に短い日数(0日など)や極端に長い日数(10日以上)になると検査結果に影響を与えてしまうので禁欲期間が設定されています。
※極端に禁欲期間が長いと精液量は多くなる傾向にありますが古い精子が放出されてしまうため、運動率や形態の検査項目に悪影響を与え、極端に短いと精子の量が少なくなってしまい正確な検査結果が得られなくなってしまう可能性があります。

検査機関の採精室にてマスターベーションをし射精した精子を容器の中に採取
精子は時間管理、温度管理もしますので検査機関現地で採取したものが望ましいですが、現地で採精することが困難であるなどの場合には別の場所で採精したものを持ち込むこともあります。
この場合、時間が経過してしまうと検査結果に影響をあたえますので、採精してから持ち込みまで一時間以内くらいに設定しているところが多いです。

精液量も検査結果として大事になるので全量を容器に入れます。

容器に入れた精子を提出

検査

精子のみの検査であれば数時間程度で検査結果が出ます。医師の都合等で数時間後に検査結果が聞けるとは限りません。
精子検査といっても種類は様々ですが、婦人科での検査は費用的な手軽さ、専門機関での検査は検査結果のみではなく医師から治療方針の提示や精子改善のためのアドバイスがあるなどそれぞれに特徴があります。

以上が精子検査の流れになります。

緊張感や抵抗感などの感情を除けば肉体的にも苦痛を伴わない簡単な検査です。

目的

検査では射精した精液の
・量
・精子の数
・運動率
・正常形態率(精子の形)
を調べます。

検査は機械で行うところと臨床検査技師が目視で検査を行うところがあります。

この検査結果を精液所見といい、精子の数が少ない、運動している精子が少ないなどの異常が判明すればその検査結果をもとにその後の方針を決定します。精子の所見の検査ですので精子検査のみでは疾患や男性不妊の原因などについてはわかりません。
男性不妊の治療は精子検査のみで進められることは少なく、それ以外の検査や診察を行って治療方針を決定していくのが基本的な流れです。

この精子検査でわかること

WHO(世界保健機関)の精液検査の正常値を参考に、検査値を判定します。

参考として、エス・セットクリニックの精子検査では、源精液を解像度の高い画像で観察し、動画で精子の運動性を記録します。それらから精子の総合的な診断を行います。また、数値だけでは判別できない精子の機能情報を分析する高度な検査もおこなうこともあります。

この結果、ご自身の状況に応じた治療計画が立てやすくなります。

WHOの精液検査の正常値(自然に妊娠が可能な精液の下限)は下記のようになります。

  • 精液量1.5ml以上
  • 精子濃度1500万/ml以上
  • 総精子数3900万以上
  • 運動率40%以上
  • 正常形態率4%以上(奇形率96%未満)
  • 総運動精子数(総精子数×運動率)1560万以上

血液検査

血液検査は経験のある方も多いと思いますが注射により血液を採取し、採血した血液を検査します。精子検査とは違い検査結果が出るまで一週間ほどかかります。

目的

血液検査を行う目的は、血中のホルモン値を調べることにあります。ホルモン検査といわれることもあり、男性不妊の血液検査によって調べられるホルモンには

・FSH(卵胞刺激ホルモン)
・LH(黄体形成ホルモン)
・TT(テストステロン:男性ホルモン)

といった生殖機能に関係するものがあります。

FSHとLHは、脳の下垂体から分泌されるホルモンでゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)と呼ばれているホルモンです。この二つのホルモンは女性側で話題になる事が多いホルモンですが男性側でも大事な役割をはたしています。

・FSHは精子を作る際にセルトリ細胞といわれる細胞で消費されるホルモンで、造精機能に問題が生じ精子が作られなくなるとFSHが消費されないため、結果的に血中のFSH値は高い値になる傾向があります。

・LHは男性ホルモン(テストステロン)を生成する際にライディヒ細胞といわれる細胞で消費されるホルモンです。
造精機能に問題が生じていると、この二つのホルモン(ゴナドトロピン)が高い値を示し高ゴナドトロピン性性線機能低下症といわれます。

典型的な例としては非閉塞性無精子症(NOA)で閉塞性無精子症(OA)との診断に用いられます。染色体検査で判明するクラインフェルター症候群もこの症状にあてはまります。

逆にこの二つのホルモンが低い値を示すと造精機能が低下しますので精子に問題が生じ、低ゴナドトロピン性性線機能低下症といわれます。
低ゴナドトロピン性性線機能低下症の場合は、ホルモン注射により造精機能が改善することが見込めます。

・テストステロンは男性ホルモンと呼ばれるホルモンでこの値が低いと勃起障害や射精障害の原因となることがあります。

このように血液検査をすることで男性不妊となっている原因がホルモンによるものであるかが確認できます。もちろん通常の血液検査同様これ以外に肝腎機能や貧血などもわかります。

尿検査

尿検査も血液検査同様検査の流れはシンプルで、容器に採尿→提出のみになります

目的

尿検査をすることで、尿糖、尿たんぱく、潜血、赤血球、白血球の数値を調べます。
炎症を起こしていたりすると白血球の数値が高くなるのでこれにより腎臓、膀胱、前立腺の異常の有無がわかります。

検査の種類によっては性病などの感染症の検査もおこないます。

超音波検査(エコー検査)

超音波検査は、患者さんがズボンを脱ぎ超音波検査用の機器を陰嚢にあてて、モニターに写された映像をみて精巣の状態を確認します。
精液所見が悪かった方や男性不妊の可能性がある方に勧められることのことの多い検査となっています。
患者さん側としてはズボンを脱ぐ恥ずかしさ等はあると思いますが痛みなどは全くありません。

目的

精巣内に血流の逆流があるかどうか、また精索静脈瘤の有無を確認します。
精索静脈瘤は代表的な男性不妊の原因であり男性不妊患者の四割ほどにみられますが、治療可能な疾患ですので、エコー検査による精索静脈瘤の確認は非常に重要であるといえます。
また、精索静脈瘤が確認された場合グレードの判定もこのときに行われます。

それ以外にも精巣上体、精管、精巣の大きさを確認したり精巣中の腫瘍や結石の有無も確認します。精路が塞がれてしまっている精路通過障害などの場合、精巣上体や精管に膨張がみられることがあります。

ここまでが男性不妊において最初におこなうことが多い一般的な検査になります。

男性不妊検査で異常がみられたときに行う検査

以下では先ほど説明させていただいた一般的な男性不妊検査で異常が見られたときなどに行われる検査について話したいと思います。

染色体検査

染色体検査は精子検査で精子の量が極端に少ない時や無精子症が疑われるとき、精巣内精子採収術TESEを行うことを検討している時などに行う検査です。染色体の異常は男性不妊に非常に大きい影響を与えることがわかっています。

患者様側としては採血をするのみなので通常の血液検査と同様の流れになります。

目的

染色体検査をすることによって染色体の数、形に異常があるかどうかがわかります。
染色体異常には数が多かったり少なかったり、途中で切れていたりといろんなケースが存在しますが、多くのケースにおいて染色体の異常は男性不妊の直接的な原因となりえます。

TESEを検討している場合などには染色体検査とAZFの検査をあわせてTESEによる精子採収の可能性があるかどうかがわかります。

染色体検査で発覚することがある異常
染色体検査で判明する異常として代表的なものが、クラインフェルター症候群と呼ばれるものでクラインフェルター症候群は染色体のX染色体が過剰になっています。(通常性染色体はXYとなっていますがクラインフェルター症候群の場合はこの性染色体がXXY、XXXYなどになっています)

染色体異常には正常な染色体と異常な染色体両方がまざっているモザイク型と異常な染色体のみの非モザイク型が存在し、非モザイク型のクラインフェルター症候群であると無精子症(非閉塞性無精子症)になる可能性がある事が確認されています。

他に染色体検査で判明する異常としては46,XYq-、リングY染色体などがあります。

対応
・染色体に異常がない場合、重度の乏精子症、無精子症になっている原因が別にあるということになりますので他の原因を検討する、サプリメントなどにの治療法が検討されます。

・染色体に異常が発見された場合、染色体異常を根本的に治す治療が現状存在しないため精子所見の改善は難しく自然妊娠ができる可能性は厳しいものとなっています。

染色体異常が見つかった際に子供を授かれるのか

染色体異常があった場合でも、子供を授かる事が不可能というわけではなく、同時に行われることもあるAZFの検査結果等にもよりますが、精巣内精子採収術(TESE)で精子が採取できる場合があります。
TESEで精子が採取できれば顕微授精(ICSI)で子供を授かる事が出来る可能性があります。

ただし染色体異常は子供に遺伝してしまうリスクが存在するので、事前に医師の説明を受け慎重に検討する必要があります。

遺伝子検査、AZF領域(Azoospermic-factor)検査

AZF領域とは、Y染色体上にある精子形成に関与する部分のことで、この領域に欠失(一部が欠けている)があると無精子症になります。
染色体検査ではこの微小領域の欠失は判別できないため遺伝子検査がおこなわれます。

AZF領域はさらにAZFa、AZFb、AZFcの三つの領域に分かれておりどの部分が欠失しているかによってその後の方針は変わりますが、どの部分の欠失でも無精子症になる可能性が非常に高い事がわかっています。

目的

TESEを行う場合の事前検査として用いられる検査で、現在唯一有効である精子が回収できるかどうかの判断材料になる検査です。
検査結果によってTESEによって精子が回収不可能かがわかります。わかるのは回収不可能の場合のみで、回収可能かはわかりません。

AZFa、AZFbに欠失がみられると精巣内に精子が存在していないことから、MD-TESEによる精子回収の見込みは非常に低いことがわかっています。
AZFc欠失の場合はMD-TESEにより精子が回収できる可能性が残されていますが、このAZFcはほぼ確実に子供に遺伝します。
女の子であれば問題はありませんが男の子であれば無精子症になる可能性があるので治療には十分な検討が必要です。

尿中精子検査

逆行性射精が疑われるときに行われる検査で、通常の男性不妊の尿検査とは行われるタイミングが異なり
・採精室などで射精
・採尿
採尿方法は通常の尿検査と同様です。

の順番になります。(通常の男性不妊の検査だと採尿→採精になります)逆行性射精であれば尿の中に多量に精子がみられますので、白濁していたり、検査によって確認することができます。

逆行性射精の診断に使われる検査です。

抗精子抗体検査

抗体とは、免疫反応により体内で作り出されるタンパク質のことでこの抗体が抗原と結合することで人は細菌などから身を守っています。
抗精子抗体とは、精子を外敵としてみなしてしまい体内に作られる抗体のことをいいます。

この抗精子抗体には、精子の運動をとめる[精子不動化抗体]、精子同士を集合させてしまう(この現象を凝集と呼びます)[精子凝集抗体]などいくつかの種類があります。
抗精子抗体の影響は個人によって程度が違いますが、精子の運動が阻害されてしまうので不妊の原因となりえます。

検査、目的

精液中に抗精子抗体が含まれていると不妊の原因となりますので、精液の検査を行います。通常の精子検査とは違い(イムノビーズテスト)と呼ばれる検査がおこなわれます。

イムノビーズテストとは、射出精液にの運動精子の表面にイムノビーズが付着するかどうかを見る検査で、精子にイムノビーズが付着すれば抗精子抗体陽性と判断されます。付着の度合いによってそのあとの治療方針が決定されます。

陽性であり自然妊娠が難しいと判断されると精子を洗浄して人工授精や体外受精が検討されたり、陽性率が高い場合は顕微授精が検討されたりします。
患者様側としては一般的な精子検査同様採精室等で精液を採取してもらうだけの検査になります。