
不妊治療は、男女で検査と治療ともに違いがあります。
不妊治療を受けることでの負担は、女性の方が大きいと一般的には考えられています。
検査で不妊の原因を調べますが、原因が複数ある場合や原因不明の場合もあります。必要に応じて追加検査を行い、段階を踏んで徐々に高度な治療をしていきます。
目次
不妊症の原因の48%は男性側にあるという報告があります
WHO(世界保健機構)の調査では、不妊の原因が男性側だけにある場合が24%、男女ともに問題がある場合が24%、女性側だけに問題がある場合が41%、原因不明の場合が11%と報告されています。これより、女性側に問題があるために妊娠できない場合の方が少し多いですが、男性側に問題があるために妊娠できない割合が少なくとも48%はあるということです。
厚生労働省の調査では、5.5組に1組の割合(約18%)で不妊検査や治療を受けたことがあるという報告があります。平成14年と少し古い情報ではありますが、厚生労働省が不妊治療の推計患者数を46万人以上と発表しました。現在はさらに多くの人が、不妊治療を受けていると予測されています。
日本では、保険が適用されないために、高額な費用がかかる体外受精や顕微授精を受けられた方の経済的負担の軽減を図る支援事業があります。平成29年度にその制度を利用した延件数は、約14万件にのぼります。
また、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療による出生児数は年々増加しており、平成28年には54,110人、総出生児数の5.54%を占めるようになりました。約18人に1人は、不妊治療を受けた夫婦から生まれたということになります。
男性は最初に精液検査をして異常がないか確認します
男性は、最初に精液検査を受けて、精子に問題がないか確認されます。問題が見つかった場合や、問題がないにもかかわらず長期間妊娠できない場合は、内分泌検査(ホルモン検査)・染色体検査・超音波検査・抗精子抗体検査などを受けることがあります。
精液検査では、精液量・精子濃度・運動率・形態・などがわかります。1度の検査で正確な精子の状態はわからないため、複数回検査を受けて、出来るだけ正確に精子の状態を把握するようにすることが多いようです。
内分泌検査は、採血してホルモン分泌に異常がないかを調べます。FSH(卵胞刺激ホルモン)やLH(黄体刺激ホルモン)は精巣に作用して男性ホルモンの分泌を促進させ、精子の生産を促します。
染色体検査では、染色体に異常がないかを調べます。染色体異常が造精機能障害の原因になっていないか、流産率が高くなる可能性があるロバートソン転座などの染色体異常がないか調べます。また、体外受精や顕微授精を検討するうえでも、大切な検査です。
超音波検査では、男性不妊の原因でよく認められる精索静脈瘤の有無や、精巣容積などを調べます。
女性側の不妊検査は、内診・経膣超音波検査、子宮卵管造影検査、内分泌検査(ホルモン検査)などが一般的な検査です。これらの検査を受けて問題が見つかった場合や、問題が見つからなかったにもかかわらず長期間妊娠できない場合は、腹腔鏡検査・子宮鏡検査、MRI、フーナーテストなどを受けることがあります。
男女ともに生活習慣を見直し、必要に応じて投薬や外科手術を行います
不妊検査で異常が認められた場合は、精子や卵子の質を高めるために生活習慣を見直し、バランスの取れた食事や適度な運動、禁煙、ストレスが溜まらないような生活を送るように指導されることが多いようです。
精索静脈瘤が認められる男性は、外科手術で精索静脈瘤の治療をすると、精子の質の改善が認められたという報告があります。手術を受けてから精子の質が改善するまでには3ヶ月以上かかるため、漢方薬や抗酸化サプリメントなど他の不妊治療を行うクリニックが多いようです。
女性は、卵管が閉塞や狭窄、子宮内膜の異常などがみられたら、腹腔鏡下手術や子宮鏡下手術などをすることがあります。また、必要に応じてホルモン剤や抗生物質を投与する場合もあります。
タイミング法、排卵誘発法、人工授精、体外受精と徐々にステップアップすることが多いです
不妊治療は、タイミング法、排卵誘発法、人工授精、体外受精と徐々にステップアップして行われることが多いです。年齢、精子や卵子の質を考慮して、すぐに体外受精を行う場合もあるそうです。
タイミング法は、排卵日の2日前から排卵日までが妊娠しやすいということを利用する方法です。個人でも基礎体温を測定して、排卵日をある程度は予測することができますが、精度は落ちます。専門機関で経腔超音波検査や尿中LHの測定などを行い、排卵日を正確に予測します。
排卵誘発法は、クロミフェンやhMG/rFSHなど排卵誘発剤を用いて、卵巣を刺激して排卵を起こさせる方法です。排卵誘発剤は、タイミング法で妊娠できなかった人、排卵がみられない人、人工授精や体外受精の際に用いられます。
乏精子症、精子無力症、精子頸管粘液不適合、抗精子抗体保有者、原因不明の不妊者などでは人工授精が行われます。人工授精は、排卵期に精子を子宮内に直接注入し受精させることです。
体外受精と顕微授精は、卵子を体外に取り出して受精させて、受精卵を培養し順調に細胞分裂を繰り返した胚を子宮内に移植させる不妊治療です。移植は、培養した胚をそのまま移植する新鮮胚移植と、一旦冷凍保存して翌週以降に移植する冷凍胚移植が行われています。
不妊治療は男性も受けるものという認識は高くなってきています
不妊治療の認知度は高いですが、具体的内容についての認知度はまだ低いです。以前は、不妊治療というと女性が受けるものと考えている人が多い傾向がありましたが、現在では、不妊治療は男性も受けるものと認識が広まってきています。
男性と女性で妊活への意識はあまり変わらないですが、自分が不妊症だと考えている割合は男性の方が低い傾向にあります。また、専門機関での不妊検査を受けることに、女性の方が積極的であるという調査結果もありました。
現在日本における不妊治療について企業の理解はまだ低いとされています。厚生労働省の調査では、不妊治療を行っている従業員に対しての支援制度などがある企業は全体の9%という結果がありました。これが全ての原因というわけではないと思いますが、不妊治療と仕事を両立できずに退職した女性が、16%もいるという報告があります。
不妊治療に関する男女の違いのまとめ
不妊治療は男女によってさまざまな違いがあり、一般的に女性の負担が大きいといわれています。
WHOの調査では、男性側に問題がある場合が48%、女性側に問題がある場合が65%です。男性は精液検査、女性は内診・経腔超音波検査、子宮卵管造影検査、内分泌検査を行い、必要なら追加検査を勧めるクリニックが多いようです。
男女ともに生活習慣を見直して、精子や卵子の質を高めるように努め、必要に応じて投薬や外科手術を受けます。
男性の不妊治療に関する意識は以前に比べると改善されていますが、女性よりも不妊検査を受けることに消極的な男性が多いという報告があります。
不妊治療に関しての男女の違い
男性 | 女性 | |
不妊症の割合 | 48% | 65% |
検査方法 | 精液検査 | 内診・経膣超音波検査、子宮卵管造影検査、内分泌検査(ホルモン検査) |
追加検査 | 内分泌検査(ホルモン検査)・染色体検査・超音波検査・抗精子抗体検査など | 腹腔鏡検査・子宮鏡検査、MRI、フーナーテストなど |
治療法 | 生活習慣の見直し、漢方薬、抗酸化サプリメント、外科手術など | 生活習慣の見直し、腹腔鏡下手術、子宮鏡下手術、抗生物質やホルモン剤の投薬 |
不妊検査 | 女性より消極的 | 男性より積極的 |