精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)

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精索静脈瘤という言葉を聞いたことがある方は少ないかと思います。
これは、「せいさくじょうみゃくりゅう」と読みます。
そして、実はこの精索静脈瘤という疾患は、男性不妊症の原因の中でも代表的なもののひとつなのです。

『精子検査の結果が悪くて検査をしてみたら、精索静脈瘤がみつかった』ということは、とてもよくある状況です。

今回の記事では、この精索静脈瘤について紹介します。

検査をしたら精索静脈瘤がみつかった、検査はしていないがそういえばなかなか子宝に恵まれない、などという方はぜひともご一読いただければと思います。

精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう;Varicocele:VC)とは

精索静脈瘤とは、精巣(せいそう)から腎静脈(じんどうみゃく)へ流れる血液が逆流してしまい、精巣の周りに瘤(こぶ)ができてしまっている状態です。

男性不妊の原因としてとても多くの方にみられ、男性不妊患者の方の実に40%強に見つかる代表的な疾患(しっかん)です。

一人目の子供が生まれたあと、二人目の子供ができない(二人目不妊)の方にも、多くみられます。
二人目がなかなかできないという方は、精索静脈溜の可能性を疑ってみましょう。

精索静脈瘤は特徴として、左側にできることの方が圧倒的に多い傾向にあります。右側にできることもあるのですが、圧倒的に左側に瘤(こぶ)ができるケースが多いです。
精子検査を行い結果が悪いと言われた方や、不妊期間が長い方が検査をしてみたところ、精索静脈瘤が見つかるというケースがとても多くあります。

精索静脈瘤は、自覚症状などがとても少なく、普段の生活に支障もきたしません。そのため、かなり重度の場合でもない限りは、自分では分からないのです。

<精索静脈瘤の特徴と男性不妊症との関係>

治療の必要性 ・不妊治療においては必要

・日常の生活には影響はない

自覚症状 重度の場合を除き、ほとんどない
特徴 男性不妊患者、二人目不妊によくみられる
瘤(こぶ)ができる場所 睾丸(精巣)の左側に多くみられる、左右両側のケースもある
精子への影響 精子所見、すなわち精子の質・量ともに悪化する傾向がある

精索静脈瘤の検査はいつしたらよいか

精索静脈瘤は、自覚症状が少なく、自分で見つけることも難しい疾患です。
そのため、検査をすべきタイミングを考えておかないと、いつまでたっても発見できないという状態になってしまいます。

したがって、以下のような状況にある方は、ぜひとも精索静脈瘤の検査をしてみることをおすすめします。
・精子の所見が悪いといわれた(少ない、動きが悪い)
・二人目がなかなか出来ない(二人目不妊)
・体外受精、顕微授精を検討している

このようなケースにあてはまる方は、ぜひとも早めに検査をしてみてください。

精索静脈瘤による不妊症への影響

精巣の温度は、通常は32~35℃程度の温度に保たれています。通常体温よりもやや低めの温度です。
ところが、精索静脈瘤があると、精巣まわりの血流が滞留することによって精巣まわりの温度が上昇してしまいます。
そして、この温度の上昇によって、精巣及び精子そのものがダメージを受けてしまい、その結果、精子の量・質ともに低下してしまうのです。
さらに、それに加えて酸化ストレスなども受けると考えられています。

このように、精索静脈瘤の存在は精巣に負荷を与え精子に悪影響を与える事がわかっています。

精索静脈瘤が精子に与える影響を具体的にまとめると、以下のようになります。
・精子数の減少(乏精子症)
・精子の運動率の低下(精子無力症)
・精子の質の低下(DNAの損傷)

これらは、どれも男性不妊症の大きな要素となりえるものです。
早期の発見と積極的な治療が求められます。

精索静脈瘤を放置しておくとDNAが損傷した精子が多くなってしまい、顕微授精等の生殖補助医療をおこなう際に、DNAが損傷している精子を使用してしまうとよい結果がえられないことが多くなってしまいます。
精子が少なくても体外受精や顕微授精をするなら関係ないという認識はまちがいです。

そのため、体外受精、顕微授精をおこなう場合でも、事前に精索静脈瘤の治療をしておくとよいでしょう。

精索静脈瘤のグレード(重症度)

精索静脈瘤の程度(重症度)はグレードといわれ基本的には1~3の三段階に分類されます。

グレード1 立位腹圧負荷で触り、確認できる
グレード2 立った状態でさわり、確認ができる
グレード3 視診で静脈瘤を確認できる

程度が重くなると陰嚢部に不快感や痛みなどを感じることもあるようですが、ほとんどの場合自覚症状がなく自分で判断するのは中々難しいです。
グレードの診断も難しいので専門医によって検査、診断をしてもらいましょう。

検査方法は触診と超音波(エコー)検査でおこなうのが一般的です。

精索静脈瘤の治療

精索静脈瘤の治療法は大きく分けて

方法
・保存的治療 漢方・サプリメント
・根治的治療 手術

の二種類があります。

治療法は、精索静脈瘤がどれだけ重症なのか、精子の状態がどうなっているのかなどを、医師が総合的に判断してご夫婦の状況にあった対応法を提案する流れが一般的です。

個人の状況によって治療方針は変化するので一概には言えませんが、簡単に表にすると

手術適応
グレード1 なし
グレード2 状況次第
グレード3 あり(夫婦の年齢などによってはすすめられない)

となります。

精索静脈瘤の状態が手術適応であったとしても、ご夫婦の年齢によっては、手術をすすめられない場合もあります。
理由は、比較的高齢になると、手術による改善率がやや低くなることがあげられます。
また、手術後、精液所見がよくなるまで、通常は半年から一年間かかるといわれていることも理由の一つです。

そのため、精索静脈瘤の手術の判断などはグレードによって機械的に行うのではなく、夫婦の状況をふまえて判断してもらうことが非常に大事になります。

治療を一刻もはやくすすめる必要があるご夫婦には、漢方やサプリメントによって精子の改善を進めていきながら、選別した良好精子をもちいた体外受精や顕微授精をすすめることもあります。

グレード1~2(軽度)の場合

精索静脈瘤の程度が軽度な時は、精子にあまり影響を与えていないことが多くなります。

軽度の場合、手術を行っても精子の改善が期待しにくいことからいきなり手術は行わず、漢方、サプリメント(抗酸化サプリメント)を服用して3ヶ月程度経過観察をします。
服用しても精子所見が改善していかない時は手術が検討されます。

グレード2の場合は、ケースによって手術がすすめられることもあります。判断は経験豊富な専門医にしてもらうのがよいでしょう。

 

漢方、サプリメントは治療機関によって異なりますが

種類 効果
漢方 ツムラ桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) 血流をよくする
サプリメント コエンザイムQ10に代表される抗酸化サプリメント 強い抗酸化作用により酸化ストレスを軽減

当クリニックでは処方されることが多くなっています。

コエンザイムQ10は、その強い抗酸化作用から精索静脈瘤に対する処方にとどまらず、精子所見の改善効果が期待できるサプリメントとして処方されています。

グレード2~3(重度)の場合

重度の場合、精索静脈瘤が精子に影響を大きく与えているとことが多くなるため、手術が検討されます。この時夫婦の年齢、精子所見によっては薬で経過を観察をすることもあります。
もちろん手術を希望されない方もいますので、その場合は薬物療法をおこないます。

精索静脈瘤は治療方法が明確でないものが多い男性不妊症の中で、手術で高い確率で治す事ができ、かつ治療後の効果が見込めるため手術が有効な手段となっています。
手術により精索静脈瘤を治すことで精子所見の改善が期待できます。

ただし、精子は作られはじめてから射精されるまで3ヶ月ほどかかってしまうため、手術の効果があらわれるには最低3ヶ月、長い場合だと半年~1年ほどかかることもあります。

精索静脈瘤の手術術式

手術の術式にはいくつかの種類があり

・高位結紮術(こういけっさつじゅつ)

・(顕微鏡下)低位結紮術(ていいけっさつじゅつ)

・腹腔鏡下術(ふくこうきょうかじゅつ)

などがあります。

治療を行うことのメリット、治療を行わない場合のデメリット

精索静脈瘤は治療することで様々なメリットが期待できます。

手術をおこなうメリット 詳細
手術による根本的治療が可能で再発率が低い ・根本的治療が非常に難しいとされる男性不妊症において、精索静脈瘤は手術によって治す事が出来ます。

・再発率も低いため、積極的に治療をすることが良い選択です。

手術により精子の所見、精子の質(DNA)の改善が期待できる ・精子所見の改善は全例とはなりませんが、手術によって不妊原因を排除することで60%程度の割合で精子所見の改善に期待ができます。

・精巣にかかるストレスが軽減されることにより精子の質の改善も期待できます。

・精子の質が改善されることで顕微授精等の治療改善効果、自然妊娠率の上昇が見込めます。

・精子所見、精子の質が改善されることによりそれまで顕微授精しか方法が無いといわれていたような方でも人工授精などにステップダウンできる可能性があります。

非閉塞性無精子症でも術後精子が出現する可能性がある ・全例とはなりませんが、非閉塞性無精子症と診断された方でも、精索静脈瘤の手術をおこなうことにより、術後に精子が出現するケースがあります。

・TESEによって精巣内から直接精子を回収する方法でしか子供を授かる方法がない、と言われた方でも精子が出現することで顕微授精を行うことが出来るなど治療の選択肢の幅が広がることがあります。

・術後に精子の出現が見られなかった場合においても、精索静脈瘤がなくなるとmicro-TESEによる精子回収率の改善も期待できるとの報告があります。

TESEは何度もおこなえるような手術ではありませんので、TESEを行う前に可能な限り精子回収の可能性を上げておくことが望ましいと考えられます。

逆に治療をおこなわず放置してしまうとデメリットが生じてしまうかもしれません。

治療しないことのデメリット 詳細
将来的に精子所見の悪化などにつながる可能性がある ・精索静脈瘤は進行性であり、自然治癒はしません。

・現在の精子所見に大きな問題が見られなくても、長い間放置しておくと将来的に精子所見の悪化を招く可能性があります。

・精子の質にも影響を与えるため体外受精、顕微授精などの高度生殖医療による治療で不利になってしまうことがあります。

精索静脈瘤の影響に長い間さらされていると術後に改善する可能性が下がる ・精索静脈瘤の影響に長い間さらされていると、術後に精子所見が改善する見込みが下がってしまうことがあります。

・極端に精子所見が悪くなっていると、精子所見が中々改善して行かなかったり、改善まで時間がかかったり、と不妊治療においてデメリットとなってしまう事も少なくありません。

精索静脈瘤についてのまとめ

精子所見が悪い、中々妊娠しないといった方、不妊症の心配がある方は精索静脈瘤があるかもしれませんので専門機関で精巣のチェックをしてみましょう。
精索静脈瘤のみならず、男性不妊の治療は改善がみられるまで最低でも数か月かかります。

少しでも疑いがあれば早めの検査、治療を心がける事が不妊治療における時間節約、効率的な治療につながります。